最初の試作品が出来た段階で、予想外に刻印が入れづらいことがわかりました。品質管理のためにもブランド略称・素材品位・個別製造番号の刻印を入れる必要があります。リング全周にわたる細かな透かし模様の内側では、これらの刻印を入れられる場所は限られ、全ての刻印を入れるだけの余裕がありませんでした。そこで、刻印を入れる場所としてプレート状の部分をリング内側につけることにしました。プレートの場所は、リング外側から見て目立たない位置と鋳造のための型を作る際に邪魔にならない位置にしなければなりません。この両立のために、デザインレベルから見直し、試作品の型作りと鋳造を繰り返して、プレートの位置を決めました。透かし模様にこだわりがある分、透かし部分の見映えに妥協することはできません。実際にこのリングの拡大写真をご覧いただいても、リング外側からはプレートの存在には気づきにくいと思います。また、プレートの位置だけではなく、着用される方のポジションにふさわしいしっかりとしたイメージのためにも、おしみなくリングに厚みを持たせたことも功を奏しました。
 

次に、試作品を手に取ってリングの内外周部分を指で触れてみると、透かし模様の角部分にわずかながらひっかりを感じることがありました。これは、リングには急なカーブがあるために、たくさんある細やかな透かし模様の角部分が露出しやすく指が触れやすくなるからです。このままでは、肌触りの悪いものになってしまいます。そこで、この角部分を丸める必要があるのですが、たくさんある透かし模様に沿ってひとつひとつの角部分を手作業で丸めるのはとても非効率です。そのため、ある工具を使って全体的に角部分を丸めてみようとしましたが、今度は角部分以外も丸まり過ぎ、模様のシャープさがなくってしまいました。小さく細やかなものだけになかなか加減がうまくいきませんが、試作品を何度も作り直すうちに、手作業と工具作業で丁度よい加減に仕上げることができました。この加減はジュエリーひとつひとつで異なりますが、いかに現実的にうまく仕上げるのかが職人の腕の見せ所と思います。特徴である透かし模様をシャープに仕上げることと、永らく着用いただくための肌触りのよさは、予めの計算ではなく試行錯誤によるものでもあります。

他の工程でもいくつかの困難がありましたが、着用する方からは見えにくいお話しになりますので、また別の機会にご紹介したいと思います。デザインストーリーに起因する試行錯誤の結果は、当ショップの無料お貸出しサンプル品で、お手に取ってお確かめいただけます。